ウクライナのゼレンスキー大統領が、ロシア国内で拘束した北朝鮮兵の捕虜2人を韓国に移送したことを公表し、これに対して韓国政府が公式に抗議し謝罪を求める事態となっています。
出来事の経緯と両国の主張
事の発端は、23日に米ニューヨークで開催された国連総会での演説でした。ゼレンスキー大統領は、韓国との1年以上にわたる協議を経て、北朝鮮の捕虜2人を韓国に移送したと述べました。その際、「生け捕りにするのは容易」ではなかったとも言及しています。
この公表に対し、韓国側は強く反発しています。韓国大統領府は、移送を非公開にすることで合意していたにもかかわらず、ゼレンスキー大統領がそれを破ったとして、厳しく非難しました。韓国側によれば、非公開としたのは北朝鮮兵の家族を守るためであり、またウクライナ側にとっても、ウクライナ人捕虜との交換機会を放棄したという批判を避けるため、秘密にすることを望んでいたと説明しています。
さらに韓国側は、ゼレンスキー大統領が演説で捕虜2人に言及することは聞いていたものの、「移送には触れないはずだった」としています。これを受けて、韓国の朴潤柱(パク・ユンジュ)外務次官は、ウクライナのアンドリー・ヴィエシキン駐韓大使代理を呼び出し、「強い遺憾の意」を伝えて正式に抗議しました。
一方で、ウクライナ大統領府は、韓国との間に秘密保持の合意はなかったと主張しており、両国の主張は真っ向から対立しています。韓国大統領府は、ウクライナ側の主張を「虚偽の広報だ」と批判し、公式な説明と謝罪を求めています。
北朝鮮兵の拘束と背景
今回移送された捕虜は、ウクライナが2025年1月にロシア西部クルスク州で拘束したと発表していた兵士の一部です。ロシアを支援するために送り込まれた多数の北朝鮮兵の中で、捕虜となった後にメディアに対し、韓国への移送を望んでいたと報じられています。
また、ゼレンスキー大統領は28日の国民向け演説や時事通信などの報道によれば、現在ロシア国内に8,000人以上の北朝鮮兵が配置されており、さらに1万人規模の増派準備が進められているという「新たな情報」を明らかにしています。ロシアが北朝鮮兵派遣の見返りに技術を提供しており、その支援の下で北朝鮮でシャヘド型攻撃ドローンが生産されているとも主張しています。
韓国の外交的ジレンマとウクライナの狙い
この問題の背景には、韓国が抱える複雑な外交上の立場があります。韓国はロシアがウクライナに本格侵攻して以来、ウクライナに同情的な姿勢を示し、今年7月にはヘルメットや防弾ベストなどの非殺傷物資を含む1億ドル(約157億円)規模の支援パッケージを発表しました。
しかし、韓国には「戦争状態にある国には殺傷能力のある兵器を提供しない」という長年の方針があり、ウクライナからの武器供与要請には応じていません。特にウクライナは、ロシアのドローンやミサイルから自国のエネルギーインフラを守るため、最先端の対空ミサイル(天弓Ⅱなど)の供与を強く求めてきました。
一方で、ロシア外務省は、韓国がウクライナに武器を提供すれば「報復せざるを得ない」と警告しています。韓国は米国と同盟関係にある一方で、北朝鮮への影響力を持つロシアや中国との貿易・外交関係も深化させてきた経緯があり、非常に難しい舵取りを迫られています。
このような状況下で、ウクライナ側が「北朝鮮の脅威」を強調し、韓国との共同戦線を構築しようとしているとの分析があります。例えば、キリロ・ブダノウ大統領府長官は、北朝鮮がウクライナでの経験をもとに軍事力を増強しており、それが韓国の安全保障上の危機に直結すると警鐘を鳴らしています。
韓国政府は、捕虜の移送という人道上の問題が、ウクライナによって国際社会に軍事支援を訴えるための道具として利用されたと批判しています。
韓国国内への影響
今回の公表は、韓国国内の政治的な火種にもなっています。李在明(イ・ジェミョン)大統領率いる与党は北朝鮮に対し融和的な姿勢を示し、和平交渉の再開を目指していますが、目立った成果は上がっていないと報じられています。
そのため、野党側は、李大統領が北朝鮮への配慮から移送の事実を隠そうとしたのではないかと厳しく批判しています。結果として、ゼレンスキー大統領による一方的な公表が、韓国国内における李政権への政治的な圧力に繋がる形となっています。
出典 BBC 時事通信 テレビ朝日 TBS NEWS DIG ゼレンスキー氏「ロシアに北朝鮮兵8千人」 さらに1万人配置へ | 聯合ニュース 「北の脅威」を強調し、韓国と共同戦線を張りたいゼレンスキー大統領 北朝鮮捕虜移送公表で韓国を怒らせる(辺真一) – エキスパート
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