永世中立国として知られるスイスにおいて、自国の軍事力で中立を保つ「永世武装中立」を憲法に明記することを問う国民投票が2026年9月27日に実施されました。
日本経済新聞などの報道によると、政府の発表でこの提案は反対多数で否決されたことが分かりました。スイス公共放送SRG SSRの出口調査では、反対票が7割を占めたと報じられています。
この結果により、ロシアによるウクライナ侵略を巡ってスイスが維持してきた対ロシア制裁などの措置は、今後も継続される見通しとなりました。
「中立イニシアチブ」が目指したもの
今回の投票の対象となったのは、保守右派の国民党(SVP/UDC)などが主導した「中立イニシアチブ(国民発議)」という提案です。この動きは、スイスが伝統的な中立に立ち戻るべきだという主張に基づいたものでした。
具体的に提案されていた憲法改正の内容は、以下の通りです。
- 「永世武装中立」の明記: 外交を定めた憲法第54条を改正し、「スイスの中立は永世・武装である」こと、および「直接軍事攻撃を受けない限り、いかなる軍事同盟、防衛同盟にも参加できない」ことを規定する。
- 制裁措置の制限: 戦争当事国に対し、国連安全保障理事会が決定したものでない限り、スイスが独自に「非軍事的な強制措置(制裁措置)」を課すことを禁じる。
つまり、中立の定義をより厳格にし、外交上の柔軟性を制限することで、他国の紛争に巻き込まれるリスクを排除しようとする試みでした。
背景にある「柔軟な中立」と「厳格な中立」の対立
スイスの中立性は、国民のアイデンティティに深く根付いている一方で、その解釈は時代や地政学的状況に応じて柔軟に調整されてきた歴史があります。
1848年の近代国家成立以来、軍隊を持ちながらも個別の紛争に関わらない姿勢を掲げてきましたが、実際には以下のような変遷を辿っています。
- 第二次世界大戦: ナチスドイツと関係を維持したことで、連合国側から厳しい視線を向けられた。
- 湾岸戦争: イラクへの経済制裁に加わったことで、中立のあり方が議論された。
- 現代の枠組み: 2002年には国際連合に加盟し、1996年からはNATO(北大西洋条約機構)主導の安全保障協力枠組みである「平和のためのパートナーシップ(PfP)」にも参加しています。
今回のイニシアチブを推進した右派・国民党の元副党首クリストフ・ブロハーさんは、こうした状況について「武装を伴う恒久で完全な中立。明白なことが憲法に書かれていない」と指摘していました。ブロハーさんは、完全な中立こそが「2度の大戦を経た小国が平和と自由と民主主義を維持し生き残るための答えだ」と語っていました。
対して、スイス政府は中立の重要性を認めつつも、憲法に厳格に規定することで「国際情勢に対応するための『柔軟性』が失われる」として、この提案に反対していました。また、反対派からは、地政学的な危機の際にこのような厳格な規定が「スイスの首を絞める」という批判も出ていました。
ウクライナ侵攻による議論の再燃
中立を巡る議論が再び激化した直接的なきっかけは、ロシアによるウクライナ侵攻であったとみられています。
スイスはこれまでの中立的な立場を維持しつつも、ウクライナ侵攻に対してはロシアへの制裁措置を講じるなどの対応を取りました。この動きが、右派保守層にとって「中立の侵食」と映ったことが、今回の「中立イニシアチブ」という形で国民投票に繋がったと考えられます。
もし今回の提案が可決されていれば、NATOとの協力関係の縮小や、独自の制裁措置の禁止など、スイスの外交方針に大きな転換が迫られていたことになります。
今後の影響と視点
今回の否決により、スイスは今後も国際情勢に応じて柔軟に中立政策を運用する方針を維持することになります。
一方で、スイス国内では依然として国家としての基本原則をどこまで具体的に書き込むべきかという議論が続いています。また、中立の立場を維持しながら、どうすれば国際的な「連帯」を果たし、当事者間の和平を仲介できるかという模索も続いています。
スイスのような小国が、激動する国際関係の中でどのように生き残るのか。今回の国民投票の結果は、単なる憲法改正の是非ではなく、現代における「中立」という概念のあり方を問うものとなったといえます。
出典 日本経済新聞 スイス国民投票、中立のあり方問う 食料安全保障や自殺ほう助も – SWI swissinfo.ch 衆議院憲法審査会の海外調査で、最初の訪問国であるスイスにおいて、憲法制度とその運用について調査… – しんどう義孝(シンドウヨシタカ) | 選挙ドットコム スイスは一度でも「中立」だったのか? – SWI swissinfo.ch 「中立イニシアチブ」でスイスはどう変わる? 厳格化をめぐり国民投票 – SWI swissinfo.ch コメディ仕立てのドキュメンタリーが問うスイスの中立 – SWI swissinfo.ch 共同通信
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