最高裁判所は2026年10月9日、著作権法で保護される「著作物」に当たらないとされるバンドスコアを模倣し、ウェブサイトで無料公開した行為について、制作会社側に賠償責任があるとの判断を示しました。
この判決により、著作権による保護を受けない表現物であっても、その模倣行為が不当な利益侵害にあたる場合に不法行為が成立し、賠償責任が確定する形となりました。
事案の経緯と争点
本件の原告は、日本音楽著作権協会(JASRAC)の許諾を得てバンドスコアの制作・販売を行っているフェアリー社(東京)です。
事の発端は2008年(平成20年)ごろ、あるサイト運営会社がフェアリー社の楽譜を模倣した版を無料公開するサイトを開設したことにあります。フェアリー社は、この無料公開によって自社の売り上げが減少したとして、サイト運営会社を相手に提訴していました。
裁判における大きな焦点となったのは、バンドスコアが著作権法の保護対象になるのか、そして著作物として認められない場合に、その無断利用や模倣に賠償責任が及ぶのかという点でした。
審理の推移:一審と二審での判断の分かれ目
本案の審理では、一審と二審で判断が大きく分かれました。
2021年(令和3年)9月の東京地裁による第一審判決では、出版社が出版した楽譜とサイトで公開された楽譜との間に相違点があることが指摘されました。その結果、模倣自体が認められず、フェアリー社の請求は棄却されています。
しかし、2024年(令和6年)6月の東京高裁による第二審判決では、判断が覆りました。二審では模倣が認められ、無料公開という行為が、楽譜の制作に投じられた時間や労力に「フリーライド(ただ乗り)」するものであると認定されました。これにより、営業上の利益を侵害したとして、運営会社側に賠償を命じる判断が下されました。
最高裁による「特段の事情」の認定
最高裁判所の第二小法廷(三浦守裁判長)は、裁判官4人一致の意見で、サイト運営会社側に賠償責任があると認めました。
これまで最高裁は、平成23年の判決において、著作権法で保護されない表現物を巡るケースでは、「特段の事情」がない限り不法行為は成立しないという判断を示していました。今回の判決は、この判例に基づいて賠償責任が確定した初めての事例となります。
最高裁は、サイト運営会社が少なくとも約6年半にわたって579曲もの楽譜の模倣版を無料公開し、そこから広告収入を得ていた点に注目しました。こうした行為は「自由競争の範囲を逸脱して営業を妨害し、営業上の利益を侵害するもの」であると認定し、著作物でなくても不法行為が成立する「特段の事情がある」と結論づけました。
朝日新聞の報道によれば、最高裁はこの会社側に約1億6900万円の賠償を命じた二審判決を支持した形となります。
音楽文化への影響と今後の視点
今回の判決について、原告側は「ただ乗り許せば、音楽文化衰退する」として、模倣行為に対する賠償命令を求めていました。
著作権法という枠組みだけでは保護しきれない「制作上の労力」や「営業上の利益」が、不法行為法という別の法的アプローチによって保護された点に、今回の判決の意義があるといえます。
実用品などの著作権保護は例外的であるとされる傾向にありますが、今回の判断は、デジタル環境におけるコンテンツの模倣やフリーライドに対して、一定の抑止力が働く指針になるとみられています。
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